ダイバーシティ

大陸欧州のダイバーシティは米国の女性の能力活用、人種平等から発生した企業内の多様性の容認による組織能力の開発とは異なり、女性の社会の進出と雇用・労働形態やライフスタイルの多様性の容認の大きな2本の柱から成り立っています。
その根底にあるのは雇用機会の確保です。特に社民主義の考え方が根強く、業種間の壁もそれなりに存在し、雇用のほとんどを中小や零細企業がまかなっている大陸欧州では北米のように大企業を渡り歩いてキャリアを積んでいくモデルではなく企業内の横異動でキャリア開発を行っています。
大陸欧州には北米のような能力重視のダイバーシティではないもう一つのダイバーシティが存在します。
●大陸欧州におけるダイバーシティ・マネジメントの変遷と現状欧州連合EU)の性差別に対する取り組みの歴史は古く、1957 年の欧州経済共同体(EEC)創設条約に、男女間の賃金差別を禁止する条項が含まれています。男女間の機会均等は、EUにおける基本的権利のひとつであり、共有の価値観、EUが掲げている成長、雇用、社会的結束の目標を達成するための必要不可欠な条件でもあります。EUは「男女平等へ向けての計画表(2006 〜 2010 年)」を策定し、ジェンダー・メインストリーミング(男女平等の考え方を政策やシステムに取り入れること)を通じた男女平等の実現と女性の進出率が低い(under-represented)分野の対策を二本柱に、新しい施策と、成功している既存の活動の強化を組み合わせた対策を取っています。
●雇用・労働形態、ライフスタイルのダイバーシティ欧州各国は1980年代以降、雇用規制の強い「失業大国」でしたが、90年代前半に東欧からの移民の流入などによって失業が深刻化し、雇用政策の見直しを迫られました。高い失業率を背景に、高成長・雇用の安定とともに社会の結束を強化する、欧州独自の政策が求められました。EUは、雇用戦略の中でFlexibility(労働市場の柔軟性)とSecurity(雇用の保障)を掛け合わせた「フレキシキュリティ」という造語を用いた戦略を打ち出し、2006年にはEUの雇用状況を分析する報告書『Employment in Europe 2006』で加盟国に対して、「フレキシキュリティ」の導入を強く奨励しています。
●国家がリードするダイバーシティ・マネジメント欧州では、正社員ではあるが時短で働く、企業に雇用されながら在宅で働く、就学のために一時休職をするといったケースが珍しくありません。特にオランダ、デンマークなどの国々では政労使が協調して「働き方」に関する各種政策、施策を進めて来たいきさつがあり、勤務時間、勤務場所、長期休暇の自由度は、多くの日本企業のしくみ(制度)よりも進んでいます。
デンマークデンマークの政策は、「黄金の三角形(ゴールデン・トライアングル)」と呼ばれ、1.解雇しやすい柔軟な労働市場、2.手厚い失業給付、3.充実した職業訓練プログラムを軸とする積極的労働市場政策、の三つが有機的に連携しています。2007年10月には「出産休暇均等法」が施行されました。この法律は、企業が従業員数に応じた分担金を基金に拠出し、女性が育児休業を取得したら、その基金から政府の手当てに上乗せして給与を補填する、といったものです。これによって、出産を機に退職していた女性たちの数が減り、企業も休業が終了したらそのまま雇用することが可能となり、貴重な労働力を確保しやすくなる、という仕組みです。
●オランダオランダでは、1980年代前半の経済不況を背景に、政労使が連携し、パートタイム労働の拡大によりワークシェアリングを推進することで、就業形態の多様化が進められました。1999年には「柔軟と安定性に関する法」=フレキシキュリティ法を施行し、一定期間(1年半〜3年間)就業した派遣労働者には、正規労働者として雇用契約を結ぶ権利を保障しました。また、2000年には「労働時間調整法」が制定され、フルタイムとパートタイム労働の切り替えを4カ月前に申請し、特別な理由が無ければ認可されることとなりました。これにより、労働者は、育児や介護、学習などの生活ニーズに応じて、労働時間の変更・調整を行うことが可能となりました。こうした一連の施策を講じた結果、オランダでは、1979年から2002年にかけて、失業率を大幅に下げながら、平均労働時間が1591時間から1317時間(出所:OECD Employment Outlook 2008)まで減少させることができました。正社員と派遣労働者の賃金格差は、日本に比べてはるかに小さくなっています。(出所:権丈英子「パートタイム社会」 社会政策学会誌第16号)こうしたシステムにより、大きな抵抗感を抱かずに、生活におけるさまざまなニーズに応じて雇用形態を変更することが可能となっています。
●教育とダイバーシティ・マネジメントの関係ダイバーシティの推進が進む欧州各国では、大学・大学院等の教育水準は一般的に高いといえますが、現実的には、企業が教育水準の高い人だけ採用することは難しいため、高度な教育は入社後に社内で身につけさせようという方針が根本にあります。つまり企業内教育を充実させることで、社員のスキルを向上させ、さまざまな職種にチャレンジできる・選択できる人材を育成することを目的としています。米国では、ハーバードビジネススクールをはじめとする世界有数のMBAコースが多数存在し、企業外で教育を受ける仕組みが主流です。一方、欧州では、多くの大学で大学は学問を修める場であるとの古典的な価値観が根強く存在するため、米国のMBAのようなプラクティカル・スクールはあまり多く存在しないのが現実です。その代わりに企業の中に教育制度があり、企業内教育が盛んです。フォルクスワーゲン、アクサ、ノバルティスなどの大手企業では企業内大学を設置している例もあります。その結果、過去携わった知識・スキルに限らず、ほかの職種・ポジションにチャレンジするための知識・スキルの下地ができます。そのうえ、企業側が社内公募制度」を充実させることで、社員の自由なキャリアの選択を促し、主体的なキャリアを積ませることが可能となるのです。各社員が、経験のない職種の持つ役割を理解することで、社内の異動が活発になり、企業・人材の底上げが図れるという仕組みです。企業の教育制度の充実ぶりが国によって異なる背景には、教育コストに対する思想の違いがあります。米国では、大国ゆえに自然と優秀な人が集まってくる、積極的に移民を受けている、人材の母数が大きいなどの理由により、社員一人ひとりを一から教育するより、貢献度の低い社員を辞めさせて、新たな人材を採用する費用のほうが安いと考えているのでしょう。一方、人口の少ない国の集合である欧州では、採用のプロセスを長く設定し、慎重に行ったうえで、充実した教育を施す傾向が強いといえます。ここでのポイントは、社員教育ダイバーシティを推進させているという点にあります。社員個人は教育を受けることでキャリアの選択肢を広げることができ、一方、企業側も、社員に教育を与え続けることで能力の高い人材育成とリテンションを行い、身につけた能力をすぐに生かせる機会を社内公募等で提供することにより、使用者と非使用者の間にWin-Winな関係が生まれます。日本企業では比較的すぐに役立つ、短期的な効果をねらった教育が主流ですが、欧州企業には、人材の底上げが結果的に会社の業績に連動するという思想があります。つまり、欧州企業は、ダイバーシティ・マネジメントで企業の業績向上を目指すために、制度を整備するだけでなく、同時に制度を生かすために個人の知識・スキルを向上させています。欧州の先進企業では、雇用の確保を第一に社員が働きやすい環境整備と「筋力アップ」の社内教育の両輪が企業業績の向上を支えている、といえるでしょう。社員1人1人が社内教育によって知的な研鑽を積むことにより、企業が競争力の高い体質に変わる、欧州のダイバーシティ・マネジメントの形から、日本企業が学ぶべき点は多いでしょう。次回は日本のダイバーシティの今後の方向性について、これまでの議論を踏まえて、少し別の角度からの視点をご提供したいと思います。【渡邊玲子】

引用元:Yahoo【テクノロジー総合(ITmedia エンタープライズ)】

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